2020年3月 日日是好日

『今朝、乗りました?』

『今度、いつ波ある?』

『この前、いい波でしたよね』

いつも通りの合言葉がネット上で駆け巡る。波が良ければ、冬は雪が降っても海に向かい、夏は平日でも午前3時台に起床する習慣が早7年経とうとしている。波に巻かれ息が続かず、何度も海水を飲み込んだ。台風一過の大波でリーシュ(自分とサーフボードを繋ぐ紐)が切れて、ボードが流され、岸まで数100m泳いだ。ウニの棘が手足に、クラゲにも腕腿、刺された。フィンが土踏まずに突き刺さり5針縫った。全て自己責任は承知の上だ。しかし波とシンクロできた(波に乗った)時のあの感覚は一度味わうと、もう忘れられない。だから繰り返し海に向かう。難しい、でも、ひたすら何度も何度も。幸福感、浮遊感、達成感、躍動感、恐怖感、グライド感、一体感、快楽。まさにSTAY STOCKED。なぜ、こんなにもサーフィンに魅了されてしまったのか。

暗闇の中、月明かりを頼りに、ひとりパドルアウト。ブラインに浸り、デトックス。勝手知ったるホームは岬の先端にあるリーフのサーフスポット。何も遮るものがない海上からの富士山の眺めは至極贅沢だ。特に空気の澄んだ冬の日の朝焼け、山頂に雪を抱え、青紫色のグラデーション、手前には紺青色の海、萌葱色の江ノ島。これもサーフィンを始めたからこそ感じられる自然の色彩の美しさだ。至福の時間とは、きっとこういう時間軸の中にある一瞬かもしれない。

『なんでまたサーフボード買うの?』

『去年、買ったじゃん』

『置き場所、どこにあるのよ』

サーフボードには、種類が色々ある。長さが違う、形状が違う、容積が違う、色が違う、素材が違う、フィンの数が違う、ロッカー(ボードのそり具合)が違う、ストリンガー(ボードの中心にある芯)のデザインが違う。何よりも緻密に計算されつくされた曲線やエッジに甘美さを感じるとともに、ハンドシェイプされたクラフトマンシップの逸品に心惹かれる。そう、だから、波のサイズに合わせて、ボードの選択肢が多々ある。変えたいのだ。単なる自己満足だが、色々、乗り心地やスタイルを試したいのだ。

パタゴニアの創業者が、『社員をサーフィンに行かせよう』を執筆している。ここアルベマールも完全フレックスなので、それを可能にしてくれる。波を沖で待っている時、色々仕事の段取りも考える。嫌な出来事やストレスはさっと洗い流す。 サーフィンをやるようになって、自然(ジネン)の変化が気になって仕方ない。潮汐、潮回り、波高、天気図、気圧、前線、雲の種類、台風、月齢、風向き、海水の味、四季折々の事象。全て刻々と変化するが、予測も出来る。波のブレイクはエネルギーの最終形でもあり、サーフィンはそれを乗りこなし、戯れる儚なきスポーツかもしれない。自然に対する畏敬の念も抱きつつ、日日是好日。

2020年3月 TK